「ここが陰茎。それで。こっちが睾丸……っと」
兄さんは真剣なのかどうなのやら。いまいちその胸の内を伺い知れない、何時も通りな面持ちで、板書を復唱するみたく僕のものをなぞる。頬を擦り付け唇を寄せて、しゃべる息がこそばゆい。
「……って。言うのが正しいから、テストではちゃんと書かないとバツなんだって。言われてみれば、そうだよね」
今度こそ大真面目に付け加えるものだから、ついに僕の腹筋が決壊した。復習のお終いにたどり着いた「コウガン」の皮を、うすく、くちびるで食みながら、馬鹿笑いに身を委ねる僕のことを不服そうに兄さんが見上げる。
なかなか斬新なアングルと表情で。これはこれで、悪くない。促すつもりで愛しいひとの髪を漉いたのに兄さんは、ちぱ、とわざとらしく水音を立て、ひっついた粘膜と粘膜とを引き剥がした。
「……今日、やったからさ」
「うん、分かってるよ」
本心から肯定したつもりだったのに恨みがましく睨まれる。じとりとした視線に縫い留められて腰の深くをざわめかせる僕もたいがい、どうかしている。こころが満たされて、かわいいうなじをさりさりとなでている。と、不意に敏感な神経が焼き焦がされて、あられもない悲鳴が漏れた。
やや遅れて肚に滲み広がるのは、悦び。その感覚が、執拗なほどに覚え込まされた快楽だと気づくのには、そう時間がかからなかった。
まだ半ばほどの勃ち上がりの僕の裏がわを、吸い付くようにもちもちとした兄さんの指の腹が往き来する。気持ちが良い。その他なんてどうでもいいや。馬鹿になった犬がヨダレでも垂らすみたいな従順に、僕はああ、とも、ううともつかない爛れた声を存分に吐き散らした。
りつ、きもちい? ちょっと得意そうな兄さんは尋ねる。ねだった玩具を買ってもらえそうな幼子みたいにぶんぶんと、僕は頷く。
「そう。じゃあ、もう出そう?」
そんな、生殺しな事があるものか。ようやく本気になり始めたインケイの決死の意思をそのまま、僕の口から兄さんに伝える。ついに嬉しそうに微笑みながらこれ見よがしの焦れったさで、口淫に湧いたなまあたたかな蜜を垂らす。剥き下げられた皮から露出した、無防備の真っ赤に熟れた先端が、ぐっぽりと喉の深くまで飲み込まれて、あまりのことにふうふうと息を逃す。
「そんなことまで習ったの?」
余裕をなくしての牽制のつもりだった。だけど兄さんは応えない。そのかわりにここぞとばかり、先ほどまでさんざ指に弄ばれた裏側に、皮の内側に秘められたはずのばしょ。透明の蜜をぷつぷつこぼし始めた中心。まだ性感の仕上がりきっていないところへ、とっくのとうにバレてしまった弱いところを、扱いて食まれていじめ抜かれる。
真っ直ぐで的確な容赦のない責め苦に内腿がビクついて、あっという間に昇ってきた射精感に慌てた僕はあろうことか、兄さんの髪の毛を乱暴に掴んで引き剥がしていた。荒く快楽を吐き逃して我に返った僕の前には大らかに微笑む兄が居た。
「ねえ、りつ」
「な、に」
「授業って、ほんとうに大事なことはおしえてくれないんだね」
そのとおりだと思う。思うけれど、いっそのことおかしくって、ついにぼくは声を上げて笑ってしまった。恥じらい、なんて思い浮かびはしたけれど、自分らだけでここまで着いた僕たちにそんなものはもう、あるはずがない。
そう経たぬうち、すっかり機嫌を損ねたらしい兄の口淫であっけなく果てたのは、言うまでもないことだった。