小説

嘘/嘘つき

※死ネタなぜならば。僕の直面しているものがあまりにも生々しくて。どちらかと言えば「それ」から気を逸したくてたまらなかった。「兄さんは嘘つきなんだね」「なっ……!?」バイトも部活もない、五時限目が終わったばかりのまだ日の高い帰り道。背後に現れ…

茹だるような/炎天下

お盆休みのおばあちゃんちは僕ら兄弟には所在ない。見るからに居心地悪そうな僕達に一言二言、大人たちから話しかけられれば無難な愛想笑いを返しておく。けれども、誰それさんの兄弟のお嫁さんだとかいう、つまりはまるで見知らぬおばさんの猫なで声で、「茂…

アイスキャンデー

「律ー! 早くこっち来いよ!」焼き付くような暑さの中、燃え盛るオレンジ髪の友人はぶんぶんと手を振るう。一体全体、どこからその元気は湧き出てくるんだ。太陽を照り返す海より眩しいトルコブルーの瞳を輝かせ、砂浜を目一杯に蹴り飛ばして跳ねてみせた。…

雨上がり

律は破壊的な物音に飛び起きた。一人ぼっちのリビングルーム。いつの間にテーブルに伏せて眠っていたらしい僕の耳をつんざくのは、ドタドタと不器用に踏み鳴らされるフローリングの悲鳴で。飛び込んできたのは案の定、僕のよく知るひとだった。「うわっ。びし…

傷/傷跡

兄さんにばったり遭遇したのは、生徒会の仕事も終えて学校を出ようとしていた頃だった。すっかり人気のなくなった校庭の犬走りの彼方から兄さんはびっこを引き引き、ひょこひょこと歩いてきた。「自主トレしてたら転んじゃって」僕を見つけた兄さんはそう言う…

兄弟なのに/兄弟だから

「律、どうして泣いてるの」粘着質な水音に混じって鼻をすする音が混ざるのを、人一倍に鈍感な茂夫に気がつけるほど愛しい弟はは泣きしゃぐっていた。見上げてみれば汗と涙と鼻水と、分泌液濡れのぐしょぐしょで、清潭な顔立ちを台無しにした律が居た。「ごめ…

衣替え

ここ弱冠二ヶ月ほど、中学生というやつをやってみての僕の感想は「大したことは起こらないな」と言ったところか。自宅と学び舎の往復。机と椅子が敷き詰められた埃臭い教室に、来る日も来る日も均質に押し込められるひと、ひと、ひと。さして興味もわかない授…

「律、お願いがあるんだけど。猫になってみて」僕は停止した。兄曰く。猫になって欲しい。僕の部屋を訪れて、兄さんはいきなりにそう言った。ような気がする。猫、か。僕の知る猫とは。小さな頭に三角耳をひょこりと揃えて靭やかな身体に尾っぽをゆらり、街中…

通勤通学

塩中学のスクールゾーンに雨傘がひしめく。チューリップの花柄。タータンのチェック。トレードマークの赤いリボンが少し褪せたキャラクタープリントに値札シールの剥がれかかった透明のビニール製。思い思いの色模様を道路幅めいっぱいに拡がりだらだらと、我…

【サンプル】Dandelion

「シャンバラを征く者」のアルフォンスがミュンヘンにやって来てから兄弟の二度目の旅立ちの日までの行間捏造妄想を共有する小説です。   

MP100

■律モブワンドロ…2017年頃に描いていたもの。だいぶ古い。桜 猫  衣替え 傷/傷跡 雨上がり アイスキャンデー 茹だるような/炎天下 嘘/嘘つき 買い食い 一緒に帰ろう 主導権、無自覚 ■モブ茂・101人目の僕へ…兄弟要素有り…