101人目の僕へ
兄弟要素ありのモブ茂100話と101話の間の話。 1 茂夫(モブ)と茂夫(しげお)◆――やあ、久しぶり。耳元で囁かれた呼び声に驚いて飛び上がる。ことは叶わなかった。我が身を見下ろせば腰から先は黒々とした影法…
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仲良し兄弟
午後17時半。ようやくの下校を見計らって大粒の雨粒を落とし始めた曇天の元、足早に駆ける。こんなのだから置き傘が減らなくて、会議も延長されるのだ。律は心のうちで舌打ちをした。パンクしそうな昇降口の傘立てと取り違えられた傘、そして紛失の絶えない…
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主導権 無自覚
目覚めのキスは冷徹だった。頬に突き立てられた唇は柔らかと知っているはずなのに、刺さるほどに冷たくて、茂夫はわずか眉をひそめる。眉をひそめただけだった。一平方メートル余の楽園にて、主は動じる様子が無い。目を開くことすら億劫だと言わんばかりにん…
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一緒に帰ろう
火照る頬に凍てつく地面が心地よい。よく見知った家の門もこうして見上げてみてみれば、随分珍妙に見えるものだ。見当違いの感想を考えるともなしにぼんやりと、抱く。ひどく眠たい。瞼が鉛のように重い。ひびだらけのアスファルトが底なし沼のよう。飲み込ま…
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買い食い
※カップリング(律モブ)匂わせ描写あり 下校途中。ささやかな隠密のために選んだのは、通学路からほんの少し横道にそれたコンビニ。お目当てを手に入れてほくほく顔で店を出た、その瞬間のことだった。「そこの塩中生。止まりなさい」予期せぬ呼…
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嘘/嘘つき
※死ネタなぜならば。僕の直面しているものがあまりにも生々しくて。どちらかと言えば「それ」から気を逸したくてたまらなかった。「兄さんは嘘つきなんだね」「なっ……!?」バイトも部活もない、五時限目が終わったばかりのまだ日の高い帰り道。背後に現れ…
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茹だるような/炎天下
お盆休みのおばあちゃんちは僕ら兄弟には所在ない。見るからに居心地悪そうな僕達に一言二言、大人たちから話しかけられれば無難な愛想笑いを返しておく。けれども、誰それさんの兄弟のお嫁さんだとかいう、つまりはまるで見知らぬおばさんの猫なで声で、「茂…
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アイスキャンデー
「律ー! 早くこっち来いよ!」焼き付くような暑さの中、燃え盛るオレンジ髪の友人はぶんぶんと手を振るう。一体全体、どこからその元気は湧き出てくるんだ。太陽を照り返す海より眩しいトルコブルーの瞳を輝かせ、砂浜を目一杯に蹴り飛ばして跳ねてみせた。…
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雨上がり
律は破壊的な物音に飛び起きた。一人ぼっちのリビングルーム。いつの間にテーブルに伏せて眠っていたらしい僕の耳をつんざくのは、ドタドタと不器用に踏み鳴らされるフローリングの悲鳴で。飛び込んできたのは案の定、僕のよく知るひとだった。「うわっ。びし…
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傷/傷跡
兄さんにばったり遭遇したのは、生徒会の仕事も終えて学校を出ようとしていた頃だった。すっかり人気のなくなった校庭の犬走りの彼方から兄さんはびっこを引き引き、ひょこひょこと歩いてきた。「自主トレしてたら転んじゃって」僕を見つけた兄さんはそう言う…
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衣替え
ここ弱冠二ヶ月ほど、中学生というやつをやってみての僕の感想は「大したことは起こらないな」と言ったところか。自宅と学び舎の往復。机と椅子が敷き詰められた埃臭い教室に、来る日も来る日も均質に押し込められるひと、ひと、ひと。さして興味もわかない授…
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猫
「律、お願いがあるんだけど。猫になってみて」僕は停止した。兄曰く。猫になって欲しい。僕の部屋を訪れて、兄さんはいきなりにそう言った。ような気がする。猫、か。僕の知る猫とは。小さな頭に三角耳をひょこりと揃えて靭やかな身体に尾っぽをゆらり、街中…
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