某グッズの描き下ろし絵から着想を得た、狼律×狼茂夫のエロい話。
人間ver.と獣姦チックなプレイが入ります。
首絞めとか噛みつきの軽い暴力表現あり。
影山茂夫は授業中の教室で、因数分解と格闘していた。どうしてもこれ以上割り切れる素数が見つからなくて、ノートの隅に必死で大きな数字を羅列していた。
「影山、ここの答えを言ってみろ」
そんな作業に没頭していたものだから。指名されてびっくり慌てて、ガタ、と大きな音を立てて立ち上がる。立てばゆらりとふかふかの尾が不安げに揺れて、その頭には三角のふくよかな黒耳が緊張してピンと揃えられている。
「えっ、と……分かりません」
「おいおい、あとは割り算しか残っていないぞ?」
わはは、と笑いに包まれる教室。冷や汗を垂らしながら落ち着いて黒板を眺めれば。詰まっていた箇所はとうに過ぎていて、本当に答えを入れるのみとなっていた。
「はい……」
左手で首輪を弄りながら、意気消沈して椅子に座る。斜め前を見れば級友の犬川が「気にすんな!」とでも言いたげに笑っている。そんな名前の彼ではあるが、頭には獣の耳もなければ尾も生えてはいない。ノーマルの人間である。
そう、この世界は人間と人狼とが共存している。今や別け隔てなく暮らす彼らは、中等部の学園生活までも共にしていた。
いつも通りに良いことも悪いこともなく過ぎていく冬の一日。給食を食べて、午後の授業も分かるようなわからないような。まずまずに過ごして、放課後は部活に勤しむ。
一月は、気持も新たに体幹強化月間だ。腹筋、特にインナーマッスルと、背筋がメインターゲットとなる。月初めには回数どころか、まるで体が持ち上がらなかった茂夫であるが、他の部員の協力を得て、足を抑えてもらったり呼吸法を教わるうちにそこそこ様になるようになってきた。それを見た肉体改造部部長から良い筋肉になったと声をかけられて、茂夫は内心では沸き立つほど嬉しく思いながら、はい、と答えた。
人狼も、人間と大差ない。当然のことながら個体差はあるが、筋力も平凡であれば学力も変わらない。人を食い殺す武器も持たなければ、極端な衝動を持つわけでもなかった。
少なくとも。「首輪」を付けている限り。
部活を少し早めに切り上げて、バイトであるマッサージ……もとい除霊の手伝いとして受付業務をこなせば、年が明けて間もない外はあっという間に暗くなる。
家に帰れば、他の家族はもう揃って、ダイニングテーブルを囲んでいた。
「兄さん。おかえり」
リビングから二枚の三角耳をひょっこりのぞかせたのは弟の律だ。茂夫のより少し青みがかった大ぶりの尾は豊かに、ゆったりと揺れている。
彼もまた、茂夫と同じく人狼であった。
「ただいま。ちょっと遅くなっちゃった」
「今食べ始めたところだから着替えて来なよ」
「うん」
暖かな団らんに迎えられ、茂夫の、なんてことはない一日は終わりに近づいていた。
テーブルには大根に人参しいたけと具だくさんな鱈鍋と、お新香代わりの塩もみきゅうりが並ぶ。彩りも豊かな、冬の食卓だ。しかしそれらを目の前にして茂夫はあまり、食欲をそそられずにいた。
「なんだシゲ、食欲ないのか?」
「今月の満月の日だものねえ」
「もうそんなに経ったのか?」
会話する父母、人間の彼らは息子を気遣う。
「ごめん、僕もちょっと……」
茂夫の隣で律も箸を置く。
「律もちょっと顔が赤いわねえ、風邪じゃないんでしょ?」
「うん、違うと思う」
「二人とも、無理しないで部屋で休んでなさい」
「うん、ごめん」
「気にしなくていいのよ」
「ごちそうさま」
兄弟、二人は言葉も少なく自室へと戻っていった。その背中を見送りながら母はつぶやく。
「人狼を矯正する首輪と言っても万能じゃないのねえ」
「人狼ったって癖みたいなもんだろ? 病気でもないし気にすること無いさ」
「まったくもう……でも辛そうで可愛そうだわ」
食べ盛りの息子らの居なくなったリビングで、夫婦もまた早々に静かな夕餉を終えようとしていた。
茂夫は自室のフローリングに座り込み、身体を抱きしめていた。暖房はつけていない。床も大気も冷え冷えとして指先なんて凍えてしまうのに、体の芯は火照ってしまって、仕方がない。
どうしたら楽になれるのかは、分かりすぎるほどに分かってしまっていた。それでもただ流されては自分自身に負ける気がして。身動きする気にはなれず、頼みの綱である首輪をきつく、握りしめた。
どれほど時間が経ったかは分からない。たったの数分だったのかも、数時間が経過したのかも、感覚が麻痺してしまって分からない頃、ドアがノックされた。ノックの主は想像がつきすぎるほど、心当たりがあって、震える声ではい、と応えた。
「兄さん……」
ふらふらと、おぼつかない足取りで弟が入ってきたものだから茂夫は慌てて立ち上がって、抱きとめて、腕の中に捕まえたまま。どちらともなくキスをした。
立ち上がったまま貪るように、競うように口腔内を貪り合って、ようやく離れる。目と鼻の先に互いに睨みつけた同胞の瞳は縦長に引き絞られていた。
茂夫が濡れた口の周りを乱暴に袖で拭いていると、律はいそいそと茂夫の敷布団を敷いている。その律儀さが可愛くて、愛おしく思えてじいと見つめていた。
平和な一時は直に終わる。布団を敷き終えた律が、照れ隠し、とばかりに茂夫を布団へと押し倒した。茂夫はされるがまま背中から倒れ込み、覆い被さるひとを見つめた。
よほど余裕が無いらしく、律は部屋着のジャージズボンを脱ぎ去ると乱暴に床に投げた。茂夫とて、他者の心配などしている場合では無く、早急に自分も下に履いているものを脱ぎ去ってしまった。
最低限下半身のみ露出した脱衣を済ませ、茂夫が部活の擦り傷でも使用しているワセリンを取り出すと、律はひったくるように受け取った。深く切り込んだ平爪の周りにたっぷりと軟膏をまとわせ、薄い兄の尻肉をむんずと掴んで穴を顕にし、縁から揉み込む。
それだけで、茂夫からすれば過去の交合を思い起こしてたまらない気持ちになるが、こんなお互いの「非常事態」であったとしても弟は兄を傷つけまいとするらしい。指先をつぷつぷと潜り込ませ、穴の襞を拡げて塗り込んではまたワセリンを足す。気が気でなくて茂夫は焦る。
「ま、まだ……?」
「もう少し、もうちょっと……」
「もういいよ。おいでよ」
茂夫は甘い誘いをかける。律の瞳が、戸惑うように色を変えたが、押し黙ると兄の穴をほぐす作業へ再び没頭した。
人差し指の先を潜り込ませ、じっとりと湿った粘膜に触れる。腸液と軟膏をなじませて、潤滑を得て。人差し指でぐにい、と穴が拡がるまでになったならば、中指にワセリンをたっぷりと取り、やはり指先からメリメリと、ゆっくり挿し入れる。
「ふ、ちょっ、ふう、ぅ、」
いつにもなく焦れる事前準備に茂夫が小さく抗議の声を上げるが、律は寡黙な職人にでもなってしまったかのように無視をしていた。
二本に合わさった指でぐるりと腸内を撫で、揺らし。満を持して恥骨の方向、腹側にある魅惑の塊をふわふわ揉んだ。
「…………!」
すんでのところで声は出ず、吐息だけが漏れた。
決して大きな刺激ではない。いい子だね、そんな声が聞こえてきそうなほどに柔らかく、蕩けるような愛撫だ。それでも、やわく性感帯を、それもさんざに快楽を覚え込まされたそこを揉まれ続ければ、居ても経っても居られなくて茂夫は身を捩って悶えた。
「りつ、りつ、も、もう……」
うわ言のように兄が言うのを、なおも無視して律は、あろうことか指を抜き去る。改めて、薬指にまでワセリンを乗せて、今度こそ遠慮なしに突き入れる。唐突な衝撃に茂夫は身を震わせた。すっかり仕上がった柔らかな菊門は三本指を悠に受け入れて桃色にてらてら輝く。好き勝手に入り口を揉みしだき、ばらばらに動かして、割り開く。目一杯指を開いたままゆっくり、感触を楽しみながら引き抜くと、ぽかりと暗い穴が開いた。垂れた愛液が、兄の黒黒とした尾まで濡らして輝いている。
絶景だ。律は思った。
「ね、律もう、もう……」
好き放題に身体を弄られて、生殺しにされたまま。たまらないのは茂夫の方だ。
「兄さん、何?」
「挿れてよぉ……律、来てよお……!」
生理的なものなのか、それとも。涙と汗と。最愛の実の兄から、汁気に濡れた顔で、くちゃくちゃになってお願いされてようやくこの仕方ない弟は満足できたのだろうか。
「……挿れるね」
律は短く言う。しかし茂夫も気が付いている。弟の、吐息に混ざるけだものの、焦げそうなほどに熱い息吹に。漏れ出る欲の香に。聡明な弟が、欲に流されまいと必死で振る舞いを演じる姿に茂夫は、また興奮していた。
「矯正」された人狼のそれは、人間のものと変わりない。人間の、最高潮に天を衝いた一物、年齢なりにしっかりと血管を浮かせた瑞々しい雄茎に手を添える。穴の閉じきらず、粘度ある蜜をこぼすまでになった兄の性器へ突き立てた。
ゆっくりと挿れ、根本まで沈み込ませて、律は大きく息を吐いた。しっかりと時間を掛けて仕上げただけのことはある。そこはいつにも増して柔らかで、熱く、挿れただけで肉の襞一つ一つまでがきゅうきゅうとしがみついて来て。情けないことに少し動いただけでも達してしまいそうだ。
律は兄を盗み見る。兄、茂夫は獣の耳を目いっぱいに絞って、口の端からよだれを垂らしながら。こちらをひた、と見据えていた。その瞳に晒されては、弟は動けない。時間が止まった。そう感じたのはごく一瞬のことで。茂夫は律にしがみついてきた。
「やっ、にいさ、動かないで!」
叫ぶ律の口が塞がれる。それが兄の唇であると認識したときには既に律は、射精していた。
射精後のまどろみと、口内への甘い刺激にしばし口さみしい赤子のように呆然としていた律であったが、はっとして兄の胸を押した。
「ねえ、兄さん、僕たちってこれで良いのかな」
「へ?」
茂夫は、突然の問にきょとん、としている。律はやや俯いて、自身の首輪に手をかけながら続けた。
「こんな首輪に抑圧されていて。人狼はもっと可能性のある存在なのにどうしてこんな、満月ごときに振り回されて、本来の力は発揮できなくて。人間なんかに遠慮して。僕らだって本当はこんな……こんなこと……」
「落ち着いて、律」
茂夫は律の頭を優しく抱きしめた。背中をぽん、ぽんと叩きながら言う。
「人狼だって人間だよ。普通の人間よりも力があっても、欠けてるところがあっても、それはただの個性だから。今は一緒に暮らしてる種族なんだ、そんなこと、気にすること無いよ」
「兄さんは……どうしてそんな……」
律は歯を噛みしめる。綺麗事にしか聞こえない、しかし確かな正論だ。兄自身が考えた結論なのか、それとも誰かの入れ知恵か。どちらにせよ律はどうしても納得したくなかった。
「こんなもの、これさえなければ……」
律は首輪に手をかける。非常時用に本人にも着脱可能に作られた、人狼向けの制御装置。忌々しく、黒い拘束具へと爪を立てる。
「だ、ダメだよ律。こんな満月の日に……!」
「兄さんは。僕が人狼同士だから……だから、赦してくれるの?」
「えっ? 何?」
「もういい」
律が言い終えるとともに、金具は外れた。
律の毛が逆立つ。うねるようにぞろりと一段伸びた毛が陽炎のように揺れている。しゅうしゅうと熱い息が、逞しく伸びた犬歯の隙間から漏れる。手足はメリメリと音を立て、平爪は黒く染まり鍵状に変形した。筋肉は隆起して一回り体格が大きくなったようにも見える。
「り、つ」
それを茂夫は、真正面から見つめていた。弟の狼化を、こうして至近距離で落ち着いて眺めるのは初めてかもしれなかったが、少なくとも恐怖は感じていなかった。
律は、答えない。言葉は聞こえているのか、正気が残っているのかも怪しい。狼化した律は、その知性を獣の衝動に委ね、欲に任せて、結論として兄だけを見つめていた。
「分かるよ、律。律は律なんだね。いいよ。おいで」
手を広げた茂夫であったが、その胸に弟は飛び込まず。兄の細い腰をぶる下げるように軽々持ち上げた。
「わっ」
流石に少々驚いて茂夫は声を漏らす。腰が地に付いていないというだけでずいぶんと不安な気持ちになるものだ。そんなことを呑気に考えている茂夫の後穴に添えられるものがある。何事かと、想像はつかなくはないものの、正体を覗き込んむ。
そこにあったのはいつもの見慣れた律のものではない。赤く熟れたむき出しの粘膜、先細りの雁首。一回り太くて、倍はあろうかという長さ。一体それは何なのか、それがこれから何を為そうとしているのか。流石の茂夫でも見当はついて。思わず血の気が引くのを感じた。
しかし、眼の前の人物は、間違いなく弟だ。僕の大事な弟。そう思い直して茂夫は全身の力を抜いた。
十分すぎるほどに解れた淫孔は先細りのそれを難なく受け入れた。十分なぬめりを持って胎内に迎え入れ、そして引き抜かれていく。告知もなしに始められたピストンは、茂夫の快楽など微塵も考えていない、実に身勝手なものだ。そして普段の律とは比べ物にならない質量に、体の芯を打抜かれたような衝撃に、茂夫は耐えた。
「うっ、う、ふうう……」
歯を噛み締めながら声が漏れる。されるがまま、茂夫は暴力的な律動を受け入れていた。目尻から涙をこぼしながらそれでも弟を拒絶はしなかった。
やがて動きはせわしなく、奥へ、奥へと深くなる。経験したこともない深みを抉られて、茂夫は喉奥からひしゃげた声を零した。内蔵をそのまま押し潰されてしまいそうに、身体の奥深く、禁則域を蝕まれる。死んでしまうかもしれない。生存したいという、原初の本能が告げる。それでも茂夫はシーツをきつく掴んで耐えしのいだ。
否、耐えるだけではない。実のところ茂夫は異様な高揚感を覚えつつあった。生命を侵されそうになる、命が足場から崩れて落ちていくようなこの感覚に、有り体にいえば快楽を見出しつつあった。極限の状態化に置かれての、脳の自己防御反応とも言えるかもしれない。この危機的状況において茂夫は、まるで熱めの温泉に浸かってでもいるような、じんわりとした暖かな熱を腹の底に感じ取っていた。
「お、ぉあ……ぁぁ、あぅっ、あんっ……! あっ!」
うめき声に甘い嬌声が交じる。ピストンはやがて深く、小刻みなものとなり、律は茂夫の身体を、人形でも扱うように引き寄せて二度目の射精を迎えた。
その瞬間、茂夫は肛門に強烈な違和感を覚えた。その正体が圧迫感であることに遅れて気づく。
亀頭球、というものをご存知だろうか。人狼が首輪で制御された現代では知らない人間も多いだろう。イヌ科の種族のそれらと同じように人狼もそれを持っている。メスを確実に孕ませるため、交尾により間違いなく子袋へ子種を届けるため、陰茎をすぐには抜けなくする、いわゆる「瘤」だ。
当然茂夫はそんなこととはつゆ知らず、限界まで引き伸ばされた肛門の苦痛と、抜けないことの焦りから身動いだ。それを許す弟ではない。律は茂夫に覆いかぶさる。後退りする兄を、自分から逃れようとしたとでも思ったのであろうか。律は、あろうことか茂夫の首輪へ手をかけた。
「そ、それはダメだ!」
茂夫は慌てて振り払おうとする。しかし律は、首輪は掴んで引寄せただけ。引き寄せた、兄の白く細い首を、鉤爪の手で締め上げた。
「……!」
食い込む爪に痛む喉。抜けないまま奥深くで小刻みに続くピストン運動、注がれ続ける熱い精液。頭に登った血液が戻らずに、顔が赤くなるのを感じる。苦しい、このままだと危ない。本能がそう告げても、茂夫はなお、身を委ねた。なぜなら弟に全幅の信頼を寄せているから。ただそれだけのことだった。
苦しさを我慢し続けて、ふと、頭がふわふわとし始める。これは逆にまずいかもしれない。そんな考えも頭によぎったが、それ以上に、初めて味わう今際の際の夢見心地にどっぷり浸って。気づかぬうち、精液もこぼさずに茂夫は絶頂していた。
狼の瘤もいつまでも出ているわけではなく、やがて後尾は終りを迎える。ズルリと陰茎を兄から引き抜いて、少しは落ち着いたのだろうか、律は茂夫に身を寄せる。かろうじてつなぎとめた意識の中、茂夫は律を抱きしめた。
「りつ……いたっ!」
肩に痛みが走る。律が狼の犬歯で兄の身体へ噛みついたのだ。たっぷり数秒、しっかりと噛み締めて、ようやく離れると、そこにはくっきりとしたうっ血が残った。
「ねえ、律。律は首輪を着けていてもいなくても、僕の大事な弟なんだよ」
茂夫は、律の三角耳を撫でつける。律の取り去った首輪を拾い上げて続けて言う。
「でも首輪は律を守るためのものだ。僕が律を失いたくないから。だからちゃんと着けないと」
すっかり大人しくなった弟の首へ、秩序の象徴たる首輪をかける。金具を留めてやれば制御装置が作動する。まもなくして律は人間により近い、普段見慣れた人間社会に溶け込む姿に収まる。
そこまでを確認して茂夫の意識はついに途切れた。
律は理解したくなかった。狼の本能に振り回されるまま。そういう事にしておいて、誰よりも敬愛する兄を抱く自身を思うと、何を今更秩序など尊重しなければならないのだろう。否、兄が過ごしやすく、多数派である人間の中で幸せに暮らすことが何よりも大切で、そのためには秩序が必要なことくらい、聡い律には嫌でも分かってしまっていた。
抱き潰した兄を見る。締めた首のうっ血は首輪がうまく誤魔化してくれており、噛みついた所で自分のものになるわけでもない。兄が着けてくれた首輪を指でなぞりながら、何も残りやしない部屋から窓の外を見る。狼の繁殖期に因み「ウルフムーン」と呼ばれているらしい小ぶりの満月が冷え冷えと、嘲笑っているかのように昇っていた。