レ◯風俗鑑賞コース風 影山兄弟のエロい本 ~今夜は本気のCコース~

「君は鑑賞コースをご存知だろうか。早速首を傾げている君におじさんが手短に説明してあげよう。それは究極の紳士の嗜み。風俗と名は付くが、モノ持つ客のお触りは厳禁だ。ベッドに上がるなど以ての外。我々は場外に侘びしく根付いた一本の雑草となり、可憐な花と花が蜜を零し、花弁を震わせ、時に可憐にそして妖艶に絡み合う様を見届けるのみ。この度は一風変わった新人が入り、瞬く間にカルト的人気を博しているとの噂を聞きつけた。出来る紳士であるおじさんはさっそくのことサクッと電話で指名し周到にホテルを手配して今はただ一人、ホテル前でまだ見ぬ花々を待ちわびているという訳である」
――――そんな設定のアホエロ本である。

※存在感あるおじさん(弱い)視点見学→律茂律(同軸リバ前提)
※この兄弟は(理由各自補完)によりレ◯風俗に似た何かに勤務しています
※モデルは◯ズ風俗ですが兄弟のモノは付いてるのでご安下さい
※本書は公序良俗を乱すこと、犯罪の推奨を意図しておりません
※上記をほどほどに忘れて頭空っぽでお楽しみ下さい

 

 

 

 

 

 待ち合わせ十分前。出来る男であるおじさんは悠々とホテル前で待ち人を物色していた。
陰気な歓楽街にはカップルの片割れか、はたまた同士と思しき冴えない男性が一人。もう一組はまだあどけない少年が二人。男はどうでも良いとして、子どもがこのような歓楽街に迷い込むとはどういうことか。出来るおじさんは紳士なので、全く無関係な未来ある若者の行く末を憂いて脳内で説教を始めてしまうのだった。

「あの、すみません。――さんで合ってるでしょうか」
 不意に名前を呼ばれる。慌てて振り向き、尚驚いた。そこに居たのは先程の少年二人。おどおどとした様子から声の主はこの……形容し難い程に無個性の具現化のような少年だろう。確か名前は茂ちゃんこと茂夫だったか。
対する片割れはと言えば、背筋に冷気すら覚えるほどの鋭利な視線を下さっている。
「『鑑賞コースA』をご予約のお客様で宜しいでしょうか。この度ご指名いただきました律と申します。そろそろ定刻となりますので部屋に入りましょう」
 これ以上の無駄話も表情筋を動かすエネルギーすら勿体ないとでも言いたげに淀みなく、しかし几帳面に丁寧な敬語を吐き捨てた。この顔はホームページでも一際目を引いていた。なるほど、この子が律ちゃんか。生真面目そうで少々癖のありそうな子であるが画像通り顔つきは清潭。この理知的な瞳が淫らな欲に崩れる様が、いや、将来が楽しみな逸材である。兄弟であるとの触れ込みだったが茂夫にはあまり似ているとは思えない。このような店だからきっと、売れ無さそうな嬢に特殊設定を付けてみただけのことだろう。
 さてこの二人、模様違いの動物プリントパーカーにジーンズという色香の欠片もないどころかそのまま子供服のような出で立ちですっかり油断していたが、どうやらこの子達が今宵、淫らに咲き乱れる二輪の花であるらしい。
 早速意表を突かれる形となったが、私も、私のムスコも共に過ぎる一秒が待ち遠しくて挨拶もそこそこに、律ちゃんの提案に従うことにしてフロントへ急ぐことにした。

 しかし、何だ。某SNSで知り合ったのその筋の仲間が「あの兄弟はヤバい」とだけうわ言のような呟きをタイムラインに流すばかりになったものだから、半ば怖いもの見たさで呼んでしまったものの私は「付いている」嬢はあまり好まないのだが。しかも、御世辞にも接客のあまり上手な子でも無さそうで、はっきり言って不安だ。とは言え、呼んでしまった物はどうしようもない。
 いっそイロモノでも楽しんでやるくらいが紳士の余裕である。そういった気概でないと懐の寒さに凍死してしまう。
 ――まだ何も知らない私は呑気にも、そんなことを考えていたのであった。



おじさんは悶々としていた。鑑賞コースの前菜、「シャワーを浴びながらキャッキャウフフ」が聞こえてこないからだ。この由々しき事態におじさんは、毛髪の間伐が順調に進む頭をひしと抱えていた。

「それでは、シャワーを浴びてきますので」
 律のそれは、提案でなく宣言であった。一方的で、しかし的確なマニュアル通りの接客をされては「ああ、行っておいで」と少年相手に返すのが関の山であった。釈然としない気持を抱えながらそそくさとシャワールームへ向かう二人を送り出してしばらく、やはりこれはダメであったかと涼しい頭を抱えて唸っている居る所である。
 またまた首を傾げている君に説明すると、鑑賞コースにおけるシャワータイムとはつまり、侘び寂びだ。垣間見すら許されぬシャワールームから響く女の子同士の楽しげな語らい。壁越しに反響する歓談から想像される二人の仲の良さ。湯に洗われた柔肌はきっと上気して火照り、艶やかに輝いているだろう。見えぬからこそ掻き立てられる想像力は後の宴への期待を高める。そう、期待値だ。見ること叶わぬからこそ人間の持つ叡智、想像力を存分に働かせて期待を高めてから、最高の状態で事を迎えたいのだ。
 それなのに彼らはどうだ。水しぶきの音と、合間に聞こえるのはくぐもった話し声が聞こえるような、無いような。それでは意味がないのだ。
 ぶっちゃけ、それが演出だって構わない。少し声を張り上げてお客さんを楽しませるような、そういった配慮はほんのちょっとくらい出来ないのか。ただでさえ声質と声量の関係で響きが悪いことくらい自覚しても良いだろうに。これだから「付いている」のは困る。つくづく、そう思った。こんなことならシャワー室ガラス張りの部屋にすればよかったと思えど後の祭り。大体、それでは意味がない。侘び寂びを知る出来るおじさんは苦悩した。
 だが、このままでは埒があかない。辛抱たまらず痺れを切らしたおじさんは、ついに強硬手段に出たのであった。

「りつー、シャワー取って」
「はーい。……って兄さん、さっき自分で置いたでしょ」
「へへ……ん、ありがと。家のと違うからどこやったか分からなくなっちゃって」
「あ、そう言えば昨日最後にお風呂入ったんだけど、リンス今日で無くなるかも」
「詰替えのまだあったっけ。聞いておかないとだね」
「洗濯機の上の棚にまだあった気がする。ティッシュペーパーの横辺りに」
「確かにあったかも。そう言えばハンドソープが詰替無くなるかな」
「そうだっけ、母さんの買い物メモ足しとかないと」

 おじさんは、禁断の扉から飛び退いた。
クオリティ満点の「兄弟設定」そのまんまの会話に少なからぬ衝撃を受けていた。先程までおじさんがへばり付いていた脱衣所への扉を隔てた向こうでは、尚も和やかな談笑の気配が伺える。このように痺れを切らして盗み聞きなどしなければ知り得なかったこと、まさかこれも計算の上でのことなのだろうか? いやまさか、あんな子供っぽい少年らに限ってそんな策士なことは。
 おじさんは鼓動が早まるのを感じていた。期待か、ただの驚愕か。初恋にすら似た甘酸っぱい胸の鼓動にいささか困惑しながら、中性脂肪に富んだ体重をじりじりと壁に預けた。

 シャワーを終えた彼らは流石に動物パーカーは脱ぎ、だぼついたホテルのバスローブを纏い戻ってきた。裾から覗くふくらはぎが健康そのものの赤の坊のようにつやつやと照るのを見ているうちに、悪戯心がくすぐられて、どれ、少しカマをかけてやろうかとおじさんは尋ねた。
「君たちお肌綺麗だねえ。おじさんがキスしちゃいたいくらい。まだ若いでしょう? 学生さんかな?」
「あ、はい。えと、ちゅうがk」
「大学生です」
「………………そうです」
「大学生、十八歳です」
「十九歳……です」
 答えることは答えたのだ。だからこれ以上は何も無駄口を叩くなよと、睨みつける律に気圧されて、と言うよりは、茂夫からかなりアブナイ単語を聞いた気がして、大慌てでコクコクと頷く。
 お遊びはルールを守らないと面白くないからね。おじさんは紳士なのでその辺りの線引も確りしているのだ。まだ乳の香の残る柔肌も桃の如き産毛の艶めく童顔も、そういう個性ということだ。藪蛇は突かないに限る。本人たちが言うならきっとそうなのだろう。いや、間違いない。そういうことにしておこう。

 ドライヤーにかけられた短髪の水気もじきに、あらかた飛んだところで、茂夫はバックパックから道具を取り出すと一丁前に慣れた手付きでベッドの上――穢れたおじさんは決して登れぬ花々の聖域――へと並べていく。その様子をじっとりと眺めながらふとした疑問を口にした。
「あれ、お尻はもう慣らしてあるのかい?」
「洗浄は終わっていますが……見たいですか?」
「おお、じゃあ、お願いしようかな」
「分かりました、どちらが見たいですか」
「うむ……どうしようかなあ」
 律ちゃんにまともに会話されるとそれはそれで面食らう。このわずかなの時間の中でずっと年下の少年に気圧されるとは(おじさんにとっては中学生も大学生も関係なく等しく少年だ)、おじさんの名が廃るというもの。
 しかしこの少年、薄身のナイフのような危うさと切れ味を持ち合わせている。良い大人をも有無を言わさず納得させ、黙らせるほどの賢さがある。本当に将来が楽しみな子だ。
 そして、そんな有望な少年だからこそ。
「じゃあ律ちゃんから見せてもらおうか」
 嬢として一輪の花として、乱れる姿が見たかった。

 律は音もなく凍った湖面のような無表情のまま、靭やかで無駄のない腿から、未練もなくさっぱりとグレーのブリーフを抜き去る。
「なるべくこちらにお尻を見せるんだよ……そう、そんな感じだ」
そして私の言うより早いか、ベッドに横たわり靭やかに開脚する。大事な所の全てがつまびらかになる、いわゆるそれはM字開脚と呼ばれるポーズを取った。
「せっかくだから表情も見たいな、クッションを腰に……うんうんナイスだ茂ちゃん」
 やたらと大きなホテル備え付けの枕を二つ、茂夫が律の腰に充てがうと丁度良い塩梅に律と、律ちゃんのたいせつな部分とが特等席の私へ向けられていた。
 どうせ使い込んであるだろうに、その窄まりは瑞々しい弾力を保って健康的に締まっていて、薄っすらと桃色を帯びている。穢れを知らぬ生娘の紅頬のように清楚なその穴。これが中学s……失敬、うら若き少年の菊門と言うものなのか。それとも顔が良ければ尻の穴まで綺麗なのか。
 吸い込まれそうな窄まりをながめているとぶびゅ、ぶぼぼ、と下品な音が割入る。空気混じりの使いかけローションが勢いよく吹き出して、飛び散った無色の液体が薄く締まった腹筋に散っていた。内腿に垂らされた蜜がつう、と筋を描いて重力に従い、怠そうに流れる。潤滑剤の冷たさに律はふるりと身動ぎした。茂夫は、体躯の割に大振りな節くれだったの手のひらを広げて丹念に、塗り込める。ゆったりとしたストロークで腿を撫で摩りながら、茂夫はごく慣れた様子でグイと身を乗り出して、律の首筋に子供のままごとみたいな接吻を落とした。
 こそばゆいのか、或いは何か。平静を装う律の肛門がヒクついているのが面白いほど良く見えた。
「へえ……男の子同士でも随分丁寧なもんだ」
「弟に痛い思い、させるわけに行かないので」
 肝心のモノには一切触れず、戯れのような前戯を見せつけながらそんなことをきっぱりとのたまう。
「所で、茂ちゃん。触ってるだけなのに随分と良さそうだねえ」
 おじさんが見逃すはずがない。もっこりとせり上げられて窮屈そうな子供ブリーフをニタニタと眺めながら、さも得意げにおじさんは言った。
 僅かに振り返った茂夫の眼光が焼き切られそうなほど鋭くて、ゾクゾクと背筋を粟立たせながら、おじさんは確実に、興奮していた。
「そうかそうか、茂夫くんのも見てみたいなァ。二人で脱いで抜きっこにしちゃおうか」
 言われるが早いか、茂夫は白のブリーフパンツを脱ぎ捨てていた。憎らしくもいじらしく大事なところの全てを覆い隠す布切れの、その端にふと、おじさんは違和感を覚える。
「ストップストップこらこら、ほら、隠さないよお。これは……おやおや……?」
 しまった。そう顔に書いてある茂夫をねっとりと、絡みつくように眺めながらねばついた笑顔を向けた。
「君たち、もしかして、源氏名じゃないのかい……!」
 ゴムにマジックペンで書き込まれた、少し洗濯に褪せたひらがな。紛れもなくそこには「かげやましげお」と書き込まれていた。
 慌てた様子の律が割言って申し開く。
「これは……衣装なので」
「ふうん、衣装、ねえ? いいよ、おじさんは大人だからね。そういうことにしておいてあげよう」
 そう言う律の声は震えていてうつむき加減に目が泳いでいる。それも束の間、バッとこちらを見上げると眼光鋭く睨みつけた。
「そういうわけなので、律ちゃんと呼ぶのは止めていただけますか」
「いきなりどうしたんだい」
「不愉快だと言っているんです。止めて下さい」
「あ、僕からも。茂ちゃんは止めて下さい。おじさんにそう呼ばれるの、何か嫌なので」
「ウッ!! ならば律くん、茂夫くん、でいいかい……?」
 律ちゃん、改め、律くんの「不愉快」はともかく、茂夫くんの「何か嫌」はおじさんの脂ギッシュなガラスハートを盛大に粉砕した。
 なぜだろう、こう、純粋そのものの瞳で睨みつけるでも無く、淡々と「何か嫌」と告げられるのは大変心にダメージを負うものだ。五十路が近づく身でありながら人生にはまだまだ学びが多いものだ。おじさんはひとつ、賢くなった。

 おじさんが年端もゆかぬ少年より学びを得ている時、当の彼らはおじさんを放置して半端に火照らされて焦れったく燻る熱の発散に勤しんでいる。
「ちょっと、おじさん抜きで始めないでよぉ」
 そう言うおじさんの声も当然無視である。
 それは、武士(もののふ)の真剣勝負にも似ていた。雨後の筍のごとく天を衝かんばかりにそそり立つモノとモノを、扱き合う。同じ男だから傍目に見ていても分かる。あれは相手をイかせることだけを目的にした無駄のない動き。半剥けの亀頭が我慢汁をダラダラと零し、脆く崩れそうなほど腰が、揺れる。未だ景色が映って居るのかすら危うく熟れた瞳は鋭く光る。男と男の真剣勝負に邪魔をするのは野暮というもの。おじさんは自身の竿を握りながら勝負の行く末を見守った見守った。
 幕切れはあっけない。AVのようなうめき声も上げることも、激しく仰け反っての痙攣もない。茂夫の腰が僅かに硬直しわずか、凝視していなければ気づくことも出来ないほどちいさく、震えた。まさに耐えに耐えかねてと言った様子であっ、という顔すらしていた。小気味よいほどの勢いよく射された白濁は、律の肋の辺りまでを重た苦しく、臍へ垂れている。
「今日も兄さんの負けだね」
「律の、うまいからずるい……」
 分かりやすくむすくれながら、茂夫は甘美な余韻に浸るようにふるふると、下腹をわななかせていた。
「君たち兄弟はいつもそうなのかい……!」
 呆れと興奮を以て、おじさんは言った。ビデオの中くらいでしか見たことのなかった同性の逝く姿。豊満な肉を湛えた女優を組みしき、さも至上の私服といった様子で射精する男ならば、ディスプレイ越しに幾千も見た。
 そのどれもがお遊戯と化してしまったしまった。
 まず、音もなく、ほころぶように散る精液。あっ、しまった。そんな顔をしながら、半端に開いて震える薄い唇。理性とは裏腹に最後の一滴も射し尽くさんと押し出すように締まる小さな尻たぶの肉。次第に我慢ならなくなり、背骨が僅かに反り返り、華奢な体躯を震えながら支えていた。先程見た光景がスローモーションになって延々と瞼の裏にこびりついて、剥がれなかった。

「特に注文がなければ」
 ティッシュで身を拭いながら、先程の問に対して律は涼しげにそう答える。しかし正直な瞳は熱に浮かされていて、何より股間の物が物申していた。
「なるほどね、では次の注文何だが」
「抜き合いの後も注文がなければルールが決まっているのですが」
「抜き合いで勝った方から挿れるというのは」
「つまり僕が上をやるということで」
「ああ、弟くんがお兄さんに挿れるということで」
「ええ、何時も通りということで。良いですね?」
「もちろんだとも」
 一瞬、律の顔が年相応の無邪気さに勝ち誇った顔に見えたのは気のせいだろうか。彼は丸めたティッシュを二つ、ゴミ箱へ鮮やかに遠投すると急くように準備に取り掛かった。茂夫はローションボトルを弟へ手渡すと、そそくさと仰向けに寝転んだ。随分と協力的な様子におじさんは疑問に思った。
「茂夫くんは悔しくないのかい」
「……? いいえ?」
 何を尋ねられているのか分からない。そう言わんばかりだった。
茂夫くんの方はあんまり競争心とか、そういうのは無いんだろうか。きょとんとしたまま固まった茂夫を見ながらおじさんは思う。それかもしくはこういう行為にあまり興味が無いのだろうか。

「ちょっと、指挿れるね」
「ん、いいよ」
 ちょっと髪についたゴミ取らせてね。
そんなくらいの気軽さで事は始まっている。
 おじさんが、仔細まで見逃してたまるものかと目をこすり終えた頃には既に律の利き手人差し指は茂夫の窄まりにずぷりと咥えられていた。
 ローションを追加しながら細かに抜き差し、穴の辺を揉み込むように執拗に撫で回す。よく出来た機械のような、或いは藪に身をくねらせる蛇のような、隙のない動きだ。
茂夫の表情を見てみると目を閉じたまま、まるで眠ってしまったかのような無表情で居る。しかしおじさんは気がついた。律の指が、きっと茂夫の良いところをかすめた時、筋肉の薄い円やかな腹筋が凹むことに。或いはもどかしいところを押し込まれて、内腿がピクピクと震えるのを。茂夫くんはどうやら口より表情より、身体を観察していたほうが多くを語ってくれて分かりやすい。この小一時間でのおじさんの見解だった。
「こんなに丁寧に解すんだねえ」
「兄さんが怪我したら困りますから」
 まるで一端の職人みたいにきりりと律は答える。
「こんなに気持ちよさそうなのにまだ解すの?」
「はい? ……兄さん、気持ちいい?」
「うん」
「本当にちゃんと?」
「うん」
「本当かなあ……」
 疑念の表情を崩せないまま律は指技をより粘着質に、奥深く潜り込ませていった。人差し指にすらりと長く伸びた中指も加えて、ズッポリと最奥まで挿し、こね回し始めた。
「――――ん、うぅ」
 さすがの茂夫もこれには参ったのか小さくうめきを上げながら、きっと本能から、逃れようと身を捩る。それを見逃す律ではなく、色白な細身の太腿をわっしと捕まえ、良いところをより深く、指をめり込ませてぐしぐしと抑えて揉み込む。それは恐らくウワサには聞く魔性の箇所。人体のバグとすら思えるような、男でも感じいると聞くあの、箇所だろう。小さく鼻奥を鳴らすばかりであった茂夫の声にひ、ふ、といった息が混ざる。丹念に転がされ、揉みしだかれ、行き場をなくしてどうしようもなく漏れてしまった声が気持ちよさそうだった。

「ここ、好きだもんね。ね、にいさん?」
 じっとりとした湿り気を帯びる情念を孕んだ律の声に思わず目をやる。頬を上気させ、半開きの口からほうほうと熱い息を吐き出してともすれば茂夫よりも情に身を任せた、飢えたけだものの相貌だった。
 二、三、茂夫が大きく身を捩る。ポーカーフェイスは見る影もなく剥がされ、舌を出し息を荒げ、呑み込まされた快楽を、全て呑み干して貪りヨガる。手と同じく体躯の割に大きな足は指をグーパーさせながら宙を揺らめく。
「本当に女の子みたいにケツマン弄っただけで気持ちいいんだねえ。お兄ちゃん出来上がっちゃってるよ」
 下卑たおじさんの声はもう、二人には届いていなかった。律は、それはそれは満足そうに笑いながら、未だ念を押して問いかける。
「にいさん、気持ちいい?」
「うん、うん」
「ね、挿れていい?」
「良いよ、挿れて」
「きもちいい、ね?」
「ん、うんっ、きもちいよ」
 どうしても欲しい玩具が貰えそうな子供みたいに律は繰り返し、尋ねた。尋ねながら、荷物から薄造りのコンドームを慣れた手付きで取り出すとはちきれんばかりの物に被せて滞りなく、くるくると巻き戻して根本まで下ろしすや否や、茂夫の股ぐらに飛びついた。

「ふ、ぅ――――!」
準備され尽くした窄まりに律の物が埋め込まれていく。育ちきった物が与えた、ただひと突きで、達したらしい茂夫が息を詰まらせる。その瞬間の律の嬉しそうな表情といったら。律は律で、切羽詰まった己のものをゆっくりと、確かめるような焦れったさで抜き、抜ききらぬうちにまた打ち込み律動を開始した。
 瑞々しい、年端のゆかぬ少年の張りのある肌と肌とが擦り合わされて、果実の弾けるような音がする。ひと突き、ふた突き。深く、大きなストロークで穿たれる度、身悶えする茂夫。律の方も、同性だからより分かるが、かなり余裕が無いようで腰を振るその様相は必死そのものであった。
 とっくに満タンのコップの水面へ、蛇口を全開に注ぎ込むかのようなやり取りはあっという間に瓦解した。兄を組み伏せて弟はいっとう深く、腰を打ち付ける。はッ、はッと犬のように舌さえ出しながら深く、深く。兄の胎に呑まれてゆく。
 茂夫の方は、と目をやっておじさんは固まった。肢体を引き攣る快楽に任せて溺れるようにシーツを掻きながら、はくはくと息を詰まらせ逃しきれない悦楽に灼かれながら尚、その相貌は弟をひしと捉えていた。
 まるで蟻地獄みたいだ。
 思わず、そんな考えがよぎる。
 だが弟とて、罠にかかった蟻のようには大人しくない。幾度も、幾度も深く穿ち、兄の欲を悦ばせる。やがてたっぷりと精液を湛えたゴムの先までを抜き去るまで、尽きぬ欲をいつまでも、いつまでも、注がんとする。その形相には涼やかな優等生の面影は無い。兄を暴いて貪り、我が物にしたいという、むき身の欲だけが映されていた。
 決して長いとは言えない交合が幾時間にも感ぜられる。研ぎ澄まされた欲と情のひりつくようなやり取りに空気が静止し、このホテルの一室だけ、時が止まってしまったかのようだった。

 突如、けたたましい警報が鳴り響く。三人の男らが固まったまま一点、丸テーブルに置かれたスマートホンを凝視する。
冷静に考えれば直ぐ分かることだった。始めての嬢だからと試しのつもりで一番短いものにしたコースの、時間終了を告げるアラームであった。あまりにも場違いな電子音を前にして、誰もが動きだせずに居る。
「……なあ、今からでもコース変更って可能かい?」
 重々しく口を開く。
「では、『本気のCコース』への変更で宜しいでしょうか」
 茂夫の声が木霊して頭の奥から耳鳴りがする。真っ直ぐな黒い瞳に捉えられてもう誰も、逃れられない。サイレンのごときアラーム音がうねる。脳髄がぐわりと煮立たせられてどろどろと零れ落ちそうな、粘度の高い高揚を迎えて、嬌宴が満ち満ちる。総意を得た怪物が手脚を生やして独りでに歩き出して底なしの沼のその先へと歩み始める。その行く先を阻むものなど、何もなかった。